トーンバランスは、超低域から高域のいちばん上の空気感まで、ミックスのエネルギーが周波数帯域全体にどう広がっているかです。トーンバランスの良いミックスは、重すぎず薄すぎず、こもりすぎず耳に痛くもなく、イヤホンでもカーオーディオでもクラブのシステムでもその性格を保ちます。同じスタイルのリリース済みの曲とラウドネスを揃えて比べ、長期のスペクトラムを目標のカーブと並べて見ることで確かめます。

このガイドでは、トーンバランスの意味、一般的な商用ミックスの形、確かめ方、測定でわからないことを説明します。

音楽でのトーンバランスの意味

ミックスの各楽器は、周波数帯域の一部を受け持っています。キックとベースは低域を、ギターや鍵盤は中域を、シンバルやボーカルの歯擦音は高域を埋めます。トーンバランスは、曲全体を通したそのすべての合計です。1つのトラックではなく、ミックスの性質です。

だから、ベースがよく録れていてボーカルがはっきりしていても、全体としておかしく聴こえるミックスがあります。5つの楽器の中低域が重なれば、ミックス全体が分厚くなります。どのパートも少しずつ明るければ、合計は耳に痛くなります。トーンバランスがいちばんはっきり聴こえるのは、パートから一歩引いて、曲全体を1つの音として聴いたときです。

トーンバランスが大事なのは、再生環境が変わっても通用するかに関わるからです。低域が重すぎるミックスは、ノートパソコンでは問題なくても車ではブーミーに鳴ります。明るすぎるミックスは、スタジオモニターでは刺激的でも、イヤホンでは疲れます。バランスの取れたミックスは、より多くの環境で形を保ちます。

一般的なミックスの形

商用ミックスは、スペクトラムのグラフで平らではありません。リリースされた曲を全体で平均すると、周波数が上がるにつれてレベルが下がります。よく使われる近似は、約 −4.5 dB/オクターブの傾きです。周波数が2倍になるごとに、レベルが約 4.5 dB 下がります。そのため、このグラフで平らに見えるミックスは、とても明るく聴こえます。

この傾きは大まかな近似で、決まりではありません。ジャンルによってその周りの違う位置に来ます。ベース主体のクラブトラックは低域でそれより上に、アコースティックの弾き語りは低域でそれより下に来ることがよくあります。目標のカーブは、ほとんどのミックスが収まる範囲として扱い、同じジャンルのリファレンス曲を使って、自分のスタイルがその範囲のどこにあるべきかを確かめましょう。

目標のカーブはアレンジについても何も語りません。ベースパートのない曲は低域でカーブを大きく下回りますが、それは選択で、間違いではありません。

耳でトーンバランスを確かめる

最初の確認は耳で、測定は聴こえたことを裏付けるだけです。聴き取りを確かなものにする点が2つあります。

まずラウドネスを揃える

ISO 226 の等ラウドネス曲線が示すように、耳は音量が小さいと低域と高域を感じにくくなります。曲を上げると厚く明るく聴こえ、下げると薄く聴こえます。つまり、ラウドネスはトーンバランスの聴こえ方を変えます。リファレンスがミックスより約 1 dB 大きいだけでも、それだけの理由でリファレンスの低域と高域が良く聴こえることがあります。比べる前に、大きいファイルを静かなファイルのインテグレーテッド LUFS まで下げましょう。方法はレベルマッチのガイドで解説しています。

聴く音量も、セッションごとに一定に保ちます。とても小さい音量でバランスを取ったミックスは、大きく鳴らすと低域と高域が多すぎになりがちで、逆もまた同じです。

リファレンス曲と比べる

自分の曲に近いリリース済みの曲を2、3曲選び、曲の同じ位置でミックスと切り替えます。大きな問いを立てましょう。自分のほうが重いか軽いか。高域は耳に痛いか、こもっているか。中域は混み合って聴こえるか。選び方と上手な切り替え方はリファレンス曲の使い方で解説しています。

グラフでトーンバランスを確かめる

耳がミックスに慣れてしまったときや、部屋やヘッドフォンが帯域の一部を強調するときは、グラフが役に立ちます。役に立つ見方は2つあります。

  • 長期のスペクトラムと目標の比較。曲全体を平均し、目標の傾きと並べて描きます。中低域の盛り上がり、プレゼンス帯域のへこみ、早めに落ちていく高域など、範囲から外れる帯域を探します。
  • リファレンスとの差分。ミックスとリファレンスのラウドネスを揃え、帯域ごとに片方のスペクトラムからもう片方を引きます。結果は、どこでどちらが多いかを dB で示します。

短期のスペクトラムアナライザーは今鳴っているものを示すので、1つの共振を探すのに役立ちます。トーンバランスには長期の見方が必要です。サビと A メロではバランスが違い、判断するのは曲全体だからです。

スマホでトーンバランスを確かめる

ABSeq の「トーン」グラフは、iPhone や iPad でトーンバランスを確かめる方法の1つです。曲の長期的なバランスを、約 −4.5 dB/オクターブの傾きと比べ、網掛けの範囲とともに描きます。A/B グラフは2つのトラックのラウドネスを揃え、帯域ごとにどちらが多いかを示し、最大の差を見出しに表示します。たとえば「B +2.1 dB @ 63 Hz」です。どちらも Pro グラフで、39帯域のスペクトラムは無料です。グラフはファイルの読み込み時に一度だけ計算され、約 125 Hz 以下の帯域は粗いので、低域の小さな差は慎重に読み取ってください。各画面はヘルプガイドのグラフの項目で説明しています。

帯域ごとにトラック B がトラック A よりレベルが高い箇所を示す ABSeq の A/B 差分グラフ
A/B グラフは、ラウドネスを揃えたあと、帯域ごとにどちらのバージョンが多いかを示します。

ミックスのトーンバランスを直す

ミックスが一方に偏っているとき、原因はたいていミックスバスではなく、いくつかのトラックです。問題の帯域に足しているパートを見つけ、先にそれを調整します。中低域が分厚いなら、そこで重なる楽器を確かめ、いちばん必要のないものをカットします。高域が耳に痛いなら、ミックス全体に手を付ける前に、いちばん明るい数個の音源を見ます。

ミックスバスでの広く小さな EQ は、トラックが近づいたあとの最後の補正に使います。ミックスバスでの狭いカットは、その帯域のすべての楽器に一度に影響します。

変更するたびにバウンスし、ラウドネスを揃えてもう一度比べます。マスターから選ぶときも同じ確認が当てはまります。マスターを比較する方法を読んでください。

測定でわからないこと

グラフが示すのはエネルギーで、ミックスの良し悪しではありません。長期のスペクトラムが同じ2つのミックスでも、片方はボーカルがはっきりしていて、もう片方は埋もれていれば、まったく違って聴こえます。ミックスが意図して網掛けの範囲から外れていても、その曲には正しいこともあります。目標は聴いたあとの確認に使い、ゴールにはしないでください。

よくある質問

音楽のトーンバランスとは?

トーンバランスは、曲のエネルギーが低域から高域までどう広がっているかを、1つの形として聴いたものです。バランスの取れたミックスは、重すぎず薄すぎず、こもりすぎず耳に痛くもなく、違うスピーカーやヘッドフォンでもその性格を保ちます。

ミックス中にトーンバランスを確かめるには?

ミックスと2、3曲のリファレンス曲のラウドネスを揃え、曲の同じ位置で切り替えて、重さ、明るさ、中域の混み具合を聴きます。そのうえで、ミックスの長期のスペクトラムを目標の傾きと比べるか、リファレンスとの差分グラフを見ます。

ミックスはどんな目標カーブに沿うべきですか?

商用ミックスでよく使われる近似は、長期のスペクトラムで約 −4.5 dB/オクターブの傾きです。これは大まかな範囲で、ジャンルごとの目標ではありません。低域の多いスタイルは低域でそれより上に、音数の少ないものは下に来るので、同じジャンルのリファレンスと比べましょう。

スマホでトーンバランスを確かめる方法はありますか?

あります。iPhone と iPad の ABSeq の「トーン」グラフは、曲の長期的なトーンバランスを約 −4.5 dB/オクターブの傾きと比べて網掛けの範囲で表示し、A/B グラフはラウドネスを揃えたあと、ミックスとリファレンスの違いを帯域ごとに示します。